業界情報 シリーズ① スマート農業
更新日:5月14日
今日は、スマート農業です。前回の更新版です。わたしの実家は江戸時代延宝から340年続く農家でした。幼少は田んぼで育ちましたので、農業は身近な営みです。因みにわたしは実家で長浜ブルーベリーという農園を準備しています。農業は、天候と価格変動という重大なリスクがあり過疎化・高齢化が常態化してもう数十年たつと思います。その色眼鏡をかけて、このトレンドシリーズで、スマート農業の勉強をしようと思います。
スマート農業とは、農作業の効率化や生産性の向上、農作物の品質向上を目的に、データ分析技術などを用いてより正確な意思決定を行い、運営を最適化する農場経営コンセプトです。

アグリボット、ドローン、センサなどの機器を使って、圃場からリアルタイムにデータを収集し、

収集されたデータはクラウド型の意思決定支援システムに送信され、整理された付加価値のある情報として、農家にリアルタイムで提供されます。
これにより、それぞれの農場や圃場に合わせて、情報に基づいた意思決定をスムーズに行うことができ、収穫量の向上につながるという仕組みです。

スマート農業のコンセプトは、精密農業から得た知識がベースとなっています。
センサとGPSシステムが開発されたことで、カバーされるグリッドを基に施肥が必要な圃場を導き出せるようになりました。その後、ドローンや衛星、高度な内蔵型センサなどの技術が進化し、圃場のデータを正確に収集し、作物をリアルタイムでモニタリング・管理できるようになりました。

精密農業はスマート農業の一分野に位置づけられます。両者の技術は類似するものの、大きな違いは、精密農業が個別の圃場や作物の状況を観察して事実を記録しきめ細かな栽培管理を目指すのに対し、スマート農業は圃場ごとに情報に基づく意思決定を促すことです。
IoTとビッグデータの進歩も、スマート農業の発展を下支えしています。これにより、農業プロセスが相互に接続され、農地に設置されたスマート農業用機器をソフトウェアソリューションに統合することで、作物の成長、家畜、灌漑管理などを継続的にモニタリングし、先を見越した意思決定を円滑に行えるようになっています。

スマート農業技術は農業のさまざまな場面で活用できる
スマート農業技術は、作物栽培、家畜管理、漁業など、多様な一次産業(農業)分野で活用できるのですが、同技術は、作物栽培の過程で広く利用できるため注目が高まっており、食用作物(小麦、米など)、商品作物(サトウキビ、タバコ、綿など)、プランテーション作物(ココナッツ、茶など)など多様な作物に応用できます。

スマート農業が成長している要因として、世界的な農地の減少や食料需要の増加が挙げられる。

スマート農業が成長している要因として、世界的な農地の減少や食料需要の増加が挙げられます。米国の人口は2010-21年にかけて約7%増加しました(米国国勢調査局)

一方、米国内の農地は同期間にエーカー換算で2%縮小しました(米国農務省)。

このため、国民1人あたり農地面積は2010年の3.0エーカーから2021年には2.7エーカーまで減少し、農作物の収穫量を向上する必要性が高まっていると考えられます。
米国の穀物用トウモロコシのエーカーあたり平均収穫量は、2022年に約173ブッシェルとなり、2010年の153ブッシェルから増えています(米国農務省調べ)。

この収穫量の向上は、John Deere(USA)などの農機メーカーが導入したスマート農業技術に起因すると考えられています。

Deloitteが2016年に発表したレポートによると、全世界のトウモロコシ生産にスマート農業技術を応用した場合、トウモロコシの総収穫量は約30%向上すると推算されています。

労働力不足と人件費の上昇が自動化ニーズを後押し
米国農務省によると、米国の農業従事者数は2000-21年にかけて約18%減少しました。

対照的に、非管理職の農業従事者の1時間あたり平均実質賃金は2000-20年にかけて29%上昇し14.62ドルとなり、また同賃金が非農業従事者の平均賃金に占める割合は約5ポイント増の約59%となりました。

こうした農業における労働力の減少と人件費の上昇を受けて、農業の自動化によるコスト削減を推進する動きがみられます。
たとえば、エンジニア向け雑誌・ウェブサイト「E&T Magazine」の記事(2016年)によると、カリフォルニア州では、ブドウの木を収穫する場合、手作業ではエーカーあたり750ドルのコストがかかるのに対し、機械で収穫すればこれを100~300ドルに抑えることができるのです。
スマート農業技術の導入によるコスト削減事例

政府もスマート農業技術の利用を支援
EUでは、農業政策の枠組みを通じ、地域全体でスマート農業を強力に推進しています。具体的には欧州全域を対象とした研究・イノベーション促進の枠組みである「Horizon 2020」プログラムを通じ、スマート農業技術を広めるための農家の訓練や、財政的支援も行っています。

一方、米国や中国のような世界の主な農業市場では、各国政府がスマート農業の発展を積極的に支援しています。
たとえば米国では、2018 年の新農業法(Agriculture Improvement Act of 2018)の成立をきっかけとして、連邦通信委員会(FCC)と農務省に農地におけるブロードバンドサービス整備案に関わる助言・提言を行うタスクフォースが立ち上げられました。また、2022年には、ミネソタ大学が2.2億ドル規模の農業研究開発施設「Future of Advanced Agricultural Research Minnesota」(FAARM)を建設する計画を発表しました。

この施設では、AIやロボティクスなどの技術を活用した農業ソリューションの研究が行われる予定です。
中国政府は、2018年に江蘇省で7年にわたる農業自動化の試験事業を開始しました。同事業には、自動の殺虫剤散布や施肥、GPS搭載の自動運転トラクターなどスマート農業技術も含まれます。
2021年には、「国民経済・社会発展に向けた第14次5ヵ年計画網要(2021-2025年)」を発表し、革新的な農業技術やスマート農業への投資を重点分野に位置づけました。さらに 農業農村部は2022年、ビッグデータを活用した「デジタル化実証区」を3~5年で本格展開するよう求める新ガイドラインを発表しました。
日本では、農林水産省が農業分野における中長期的な政府方針を示す「食料・農業・農村基本計画」を策定し、5年毎に見直しを実施しています。

2020年に公表された最新の内容には、国内の農家数が2015年の210万戸から2030年には130万戸にまで減少する見通しを踏まえ、AIやIoT、ロボットといった技術の導入を通じて農業分野の生産性向上を促進する指針が盛り込まれています。これに関連する政府主導の取り組みとしては、農業関係者間の連携推進を目的とした農業データプラットフォーム「WAGRI」の開発などがあり、2019年に運用を開始しました。
スマート農業の導入拡大により世界的な市場成長へ
Grand View Researchによると、2021年の世界のスマート農業市場は推定約140億ドル規模であり、2022-30年にかけては年平均成長率(CAGR)11%で成長すると予測されています。
地域別にみると、2021年では北米が市場シェア45%でリードしています。北米の優位性は、土地や水の保全に対する関心の高まりとともに、政府や規制当局が農業支援策を実施していることに支えられています。
たとえば、米国農務省は2013年にマイクロローン制度を導入し、これまで融資枠の7割以上を新規就農者に割り当てています。さらに、北米の大手農業機械メーカー各社もスマート農業分野へ積極的に投資しています。

たとえば、John Deereは、2017-21年の間に米国のスマート農業スタートアップ2社(Bear Flag RoboticsとBlue River Technology)を買収し、2022年に完全自動運転トラクターを発表しました。
中~大規模農家はスマート農業の導入により収穫量向上が期待できる
米国の農家の大半は、農業収入の低さと負債の増大に直面しています。生産コストを差し引いた純農業収入はプラスであるものの、負債の増加を補うには不十分であり、農務省によると、2022年の農業セクターにおける負債総額は純農業収入の約3倍となったと推算されています。またTIME誌によれば、2013年以降、既存の農家の半数以上が毎年赤字を計上しているとのことです。
こうした中、今後多くの農家がコスト削減と収益拡大を求めてスマート農業技術を活用する可能性があります。たとえば、スマート農業技術企業であるKray Technologies(USA)は、同社の作物保護剤散布用ドローンを導入したことで、散布コストを10分の1に低減し、燃料やメンテナンス、スタッフにかかる費用も削減することに成功しました。
種子、肥料、化学薬品などのより効果的な利用により従来の手法でかかっていた変動費も削減できます。

また、自動運転トラクター、センサ、VRT、ドローンなどを含む作物農場向けのベーシックなスマート農業パッケージの料金は、小規模農家では平均で約6万7,000ドル、大規模農家では約23万9,000ドルにのぼります。
これらの農家の平均的な収入を基準にして、初期投資回収にかかる期間は、小規模農家は約8年、中~大規模農家は約4年と試算されます。
なお、中~大規模農家の投資回収期間が小規模農家よりも短いのは、大規模投資が可能であることによるものです。さらに、スマート農業の導入により新たな運用費用がかかったとしても、生産性向上や人件費削減の効果により、利益拡大が期待できます。
農機メーカーはスマート農業向け農機とソフトウェアの提供へとビジネスモデルを転換
スマート農業では、リアルタイムにデータを収集して意思決定支援システムに送信するため、接続された(コネクテッド)農機が必要になります。
実現のためには、既存の農機を、コネクテッド機械に変換または刷新する必要があります。

この流れにより、John Deereなどの農機メーカーは、自動運転トラクターなどのコネクテッド機械システム(リアルタイムデータを意思決定支援システムに送信し、最適なソリューションを実行する)を開発しています。
同社は、クラウドベースのデータなどのスマート農業技術を採用した数少ない従来型の農業企業の一つであり、農家が圃場のパフォーマンスを評価し、情報に基づく意思決定が行える「John Deere Operation Center」を立ち上げました。さらに、2021年にBear Flag Robotics(USA)、2022年にLight(USA)を買収し、自動化とAIビジョン技術のさらなる強化に取り組んでいます。

AGCO(USA)も、スマート農業のスタートアップや関連するソフトウェアソリューションプロバイダに出資して、自動運転トラクターの分野に参入しています。2021年に家畜モニタリングシステムを獲得するためFaromatics(ESP)、2022年に自動化システム製品の拡充のためJCA Industries(CAN)を買収しました。
日本の大手農機メーカーであるクボタは、スマート農業機器やソリューションを提供しており、この分野での研究を続けています。2021年、精密農業の技術ノウハウを得るためAgJunction(CAN)を買収、ロボット開発のためDIMAAG-AI(USA)との研究開発に投資を行っています。

進化するスマート農業分野には、物理的および非物理的なインフラを提供することで、テック企業の参入も可能となりました。また、NVIDIA(USA)、Amazon(USA)、Microsoft(USA)、IBM(USA)など、AIやビッグデータに関する技術を強みとするソフトウェア系企業も、そのノウハウを活かしてスマート農業市場に参入しています。