業界情報 シリーズ①トレンド5位 スマホ決済
シリーズトレンド業界、今回はスマホ決済です。しらずしらず、スマホ決済を使うようになってきました。


SPEEDA 2023/3/6現在
日本では長らくキャッシュレス決済比率の引き上げが課題といわれてきました。経済産業省の試算によると、現金決済にかかる社会コストは年間2.8兆円に上ります。
また、中国を始めとしたアジア圏でスマホ決済が拡大し、日本が決済後進国となりつつある中、訪日客への対応も問題視されました。

各国の現金流通残高の対名目GDP比率(2020)
2020年時点のGDPに対する現金流通残高の比率をみると、日本は先進国の中でも高水準にあるようです。日本では、クレジットカードが広く普及しているにも関わらず、高額決済に利用されており、頻度の高い少額決済では現金が主となっていることが要因とされます。

2019年時点のICT総研の調査によると、決済額が1~3万円ではクレジットカード、1~3千円では現金を利用するとした割合が多かったようです。食品スーパーの平均客単価が3千円以下であることを考えると、多くの小売店舗では現金が主流と想定されていました。
中国でのコード決済普及がきっかけに
2010年代後半、中国においてスマホ決済、特にQRコード(バーコード含む)決済が普及したことが、日本での議論のきっかけとなりました。
QRコードは技術的な観点では1990年代から存在するシンプルな技術ですが、その分、専用端末などが不要となり初期投資が低下、小規模店舗にとっては普及しやすいメリットがあります。

(喬 さん, ☝のせました~)Funfoさんのモバイルオーダー
またユーザーや加盟店向けの各種キャンペーンにより一気に普及させる事業モデルなども、中国が先行事例となっています。
なお、日本では、おサイフケータイやカード型電子マネーでNFC によるタッチ決済が先に普及していたことから、NFC機能も連携しているサービスが多いようです。
スマホ決済が日常の買い物で定着、コロナ禍も普及を後押し
参入各社のキャンペーンに加え、コロナ禍に入って感染拡大防止策としてキャッシュレス決済の利用が推奨されたことで、普及の後押しとなりました。
消費者庁の調査によると、2019年12月時点で34%だったコード決済は2022年2月では51%となり、交通系以外の電子マネーと並ぶ形になっています。
JCBの「コロナ禍におけるキャッシュレス決済事情」調査(2020年7月)によると、「これまで現金で支払っていたお店でも、キャッシュレス決済(クレジットカード、電子マネーを含む)を利用するようになった」にあてはまると回答した対象者は66%、60代でも59%となったようです。
キャッシュレス決済に抵抗感が強いとされるシニア層でも利用がたかいようですね。

比較的利用する頻度の高いキャッシュレス決済手段(複数回答)
政府は規制緩和施策を展開
日本政府は規制緩和や消費者還元などのインセンティブ付与によって、キャッシュレス決済の促進を図っているようです。
従来、決済事業者には厳しい規制があったのですが、2010年に資金決済法が施行され、銀行以外の事業者でも決済サービス(資金移動業)の提供が可能となっています。

2020年の割賦販売法改正では後払い分野での規制が緩和され、利用実績データなどに基づく新たな与信審査手法や、少額・多頻度決済での後払いサービスなどの枠組みが新設されています。

また経済産業省ではキャッシュレス化を推進するため、「キャッシュレス・消費者還元事業」や端末等の導入支援を行う「面的キャッシュレス・インフラの構築支援事業」などの助成制度を展開してきました。
普及期に入る一方、セキュリティ面では懸念も残る
PayPaやd払いの取扱高をみると堅調な推移を見せているほか、中小企業でも導入が進んでおり、スマホ決済は成長期から普及期に入りつつあるようです。
経済産業省の調査によると、中小企業のうちコード決済の導入率は2021年3月時点でクレジットカードと同水準の55%、飲食・小売・観光分野では6-7割の導入率となっています。
懸念とされる高齢者についても、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの調査(2022年8月)によると、60代の68%が「現在利用している」と回答しており、徐々に普及が進んでいるとみられます。

もう一つの懸念事項として、不正利用や個人情報の漏洩などセキュリティ面での課題も指摘されています。
2019年には7payの不正利用、2020年にはゆうちょ銀行、地銀からの不正引き出しなどが発生しました。

コード決済に限るものでありませんが、メルカリではフィッシング詐欺などにより、2022年1-6月期にメルカリ事業で23億円、メルペイで9億円の影響が生じました。
決済の関連分野の拡大で関係事業者が増加していることもあり、2020年の割賦販売法改正ではクレジットカード番号等の管理など、セキュリティ対策が強化されました。
コード決済額は8兆円以上となる見込み
キャッシュレス推進協議会によると、2021年のコード決済利用金額は7.3兆円でした。
増加率はやや鈍化しているものの、2022年1-6月期は4.8兆円に上っており、拡大傾向は当面の間続くと考えられているようです。

また、MAU(月間アクティブユーザー)は一部ユーザーの重複があるとはいえ、4,900万人超と国内労働力人口の7割に当たり、一般的な決済手段として普及したといえそうです。
決済サービス単独での収益化は難しい反面、他サービスとの連携や金融サービス提供で収益化を図る
ユーザー数を確保するため、スマホ決済各社はこれまで大規模なキャンペーンを展開しており、その採算が問題となるようです。現在国内コード決済市場で首位のPayPayを例にみてみましょう。
PayPayがこれまでにキャンペーンやシステム構築、加盟店舗拡大のための営業などに投じてきた費用は、2020年までで2,000億円にのぼると推測されます。
取扱高は年々増加し2021年度で5.4兆円となったのですが、収支では未だ赤字の状態が続いているようです。2021年度から手数料の有料化が進み、赤字幅は縮小しているが収益化に至るにはまだ時間を要するとみられ、これまでの投資コストの回収は容易ではないことが窺えます。

PayPayの取扱高および当期利益
PayPayの場合は、決済サービスを軸にグループ事業を包括展開することで全体としての収益化を図っているようです。
たとえばAmazon、楽天に並ぶECとして2019年にPayPayモールを開設、PayPayポイントによる販促イベントが成果を上げているようです。
また、Zホールディングス傘下のジャパンネット銀行を始めとした金融部門各社がPayPayブランドに社名・サービス名を変更、 PayPay経済圏の確立に動いています。
さらに、2021年12月からPayPayカード、2022年2月からPayPayあと払いの提供を開始、PayPay自体でも金融サービスを強化しています。
マーケティングによる増益効果が期待できるが、中小企業では課題も
手数料有料化の成否をみるには、店舗側の費用対効果も重要です。
経済産業省の調査では、例えばコード決済を導入すれば、レジ業務所要時間が現金比で38%短縮できるとしています。
ただし経済産業省の調査によると、現金関連作業コストは大部分の店舗で1%以下である一方、決済手数料は1.6%以上となっており、作業効率化だけでは見合わないケースが多いとみられます。

店舗側が期待する最大のメリットは増収効果のようです。
スーパーにおけるキャッシュレス決済導入時の効果では、会計時間の短縮が大部分でしたが、一部では売上の増加効果もみられたようです。
さらにスマホ決済では、クーポンなどのマーケティングによる増収効果が期待できます。これまでのポイントカードと異なり、モバイル化によって個人に合わせたマーケティングを実施しやすいためのようです。

業界や手数料などの諸条件にもよるが、クーポン発行などで売上が5%以上増加すれば決済手数料分を上回る利益が得られる可能性があるようです。
各社は既にクーポンサービスを行っていますが、中小企業での導入については費用面での問題もあり、利用が定着するかどうかが注目されます。
マネタイズの成否を判断する段階に

2021年には複数のサービスで有料化が実施されており、成長期から投資回収を行う後期成長期に入ったといえるようです。一方で1~2%の決済手数料は、決済事業者、加盟店舗双方にとって収支が合わない可能性が高く、集客サービスなどのビジネスモデル確立や、決済事業者側では金融サービス分野への拡大などが重要となるようです。

決済サービスの上流・下流に影響
キャッシュレス決済の拡大は、関連業界にとっても少なからず影響を及ぼすと考えられています。
特に決済サービス単独での収益化が難しい場合、上流や下流に対する包括的なサービス展開が鍵となるようです。
ユーザーに対してはクレジットカードや金融サービス、ECへの囲い込み、加盟店に対しては事業者ローンやマーケティングサービスの提供などが挙げられます。
上流のECや銀行、クレジットカード分野など既存業界にも一定の影響があると考えられます。
NTTドコモやKDDIなどがスマホ決済事業を急速に推し進めたのは、このような事業の拡張性に可能性を見出したためと考えられます。
