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PPAにおける無形資産価値評価は、そもそも特有の論点が多く、また会計基準や適用指針において具体的な算定方法や耐用年数の根拠等の定めもないことから、個々の事案に応じた適切な前提条件や将来予測に基づく、合理的な見積りが必要とされます。
そのため、無形資産評価を行う評価者には、十分な実務経験と財務会計・監査に関する高度な専門性が求められます。K.K.FASは、評価者であると同時に、監査法人の専門家レビューも経験してきており監査法人の監査に耐え得るレベルの専門家性を有しています。
なお、PPA(広義)は無形資産評価のみを意味しませんが、実務的に「PPA」というと無形資産評価を指すことが多いため、解説は無形資産評価についておこないます。
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事業計画
株価算定でもそうですが、PPAを実施するベースは事業計画(フリーキャッシュフロー)です。
PPAでは識別される無形資産の算定において超過収益法やロイヤリティー免除法等のインカム・アプローチで価値算定を行うことが多いです。(人的資産は実務的にコスト・アプローチしかないとおもいます。)
各無形資産へ配分する将来キャッシュフローの見積にあたり事業計画の情報をどのように整理・利用するかが重要です。
PPAを実施するタイミングは通常買収後(クロージング後)実施されます、そのタイミングで事業計画はいくつかあるはずです。
ア:買収価格の決定において使用された計画
イ:買収後のいくつかのシナジーが考慮された事業計画
M&Aプロセスの時系列で事業計画がかわるケースがあります。
では、「PPAに際して」事業計画で考慮する点をあげます。
A.事業計画(キャッシュフロー)と無形資産の関係
B.市場参加者の観点
まず、A 事業計画と無形資産の関係です。以下イメージ図(縦が1時点の価値 横は時系列、面積が配分される取得価額(総額))です。
事業計画のキャッシュフローをおおまかに配分すると「既存の顧客・既存製品に帰属する価値」「新規顧客・新製品等に帰属する価値」そして「被取得企業に帰属する固有のシナジー」にわけることができます。
(取得価額(総額)の配分の大きさはさまざまです、あくまでイメージ図です)
そして、PPAで識別される無形資産に帰属するのが、「既存の顧客・既存製品に帰属する価値」です。たとえば、顧客関連資産を計算する際の超過収益法の事業計画では、「減衰率」で既存顧客の離反予測を計算します。業界によって顧客の離反を表す指標の表現は異なると思いますが、チャーンレート(Churn Rate)・解約率でピンとくるのではないでしょうか。取得した顧客は入れ替わりで事業継続しますが、PPAでは取得時点の既存顧客だけを評価するため、既存顧客の取引を減少(減衰)する計画をたてる必要があるわけです。
これは超過収益法の算定sampleの一部分です。簡単な仮定(基準日顧客数を20、離反期間20年間など)をおいて、既存客売上高の離反計算を計画したものです。
超過収益法では、このように対象識別無形資産にかかる事業計画(キャッシュフロー)計算をおこないます。
なお、全社事業計画の「切り分け」ですね。
他方、「新規顧客・新製品等に帰属する価値」そして「被取得企業に帰属する固有のシナジー」はいずれも のれん に帰属する事業計画(の切り分け)となります。
次いで、B.市場参加者の観点です。これは全体事業計画に関してのポイントです。
シナジーがポイントです。
冒頭
ア:買収価格の決定において使用された計画
イ:買収後のいくつかのシナジーが考慮された事業計画
と買収後の見立てとしての事業計画がいくつかある話をだしましたが、これらには「シナジー」が含まれています。(あるいは含まれていないときがあります。)
例えば、いわゆる「高値掴み」で買収した場合には、「バラ色の事業計画」で買収している場合があるとおもいます。その場合、特別なシナジー、「買い手特有のシナジー」を織り込んでいるケースがありえると考えられます。
(買収価格の決定は容易ではありません。)
他方で、市場参加者の観点は、買い手固有のシナジーは織り込まない。また、複数の買い手が織り込むであろう被取得企業固有のシナジーは織り込みます。
これは、①評価アプローチでご紹介しましたが、IFRS13号、公正価値とは「測定日時点で、市場参加者間の秩序ある取引において、資産を売却するために受け取るであろう価格又は負債を移転するために支払うであろう価格」としているからです。
つまり、無形資産は(他の買い手である)市場参加者が考慮すると考えられる前提に基づくキャッシュフローを使用する必要があるからです。
事業計画に基づくキャッシュフローを見積るにあたり、市場参加者の前提を置く場合、被取得企業のスタンドアローンベースのキャッシュフローに市場参加者が享受するシナジーのみを考慮した計画値を使用する必要があるということです。例えば、重複する管理体制の合理化などはどの買い手でも享受可能なシナジーです。
逆に、「バラ色の事業計画」などに含まれると考えられる買い手固有のシナジーの例としては、買い手固有のリソースを使ったクロスセルや、買い手固有のコスト削減など、その買い手のみが考慮可能なシナジーとなります。
経営者の方は、PPAを踏まえ、事業計画のシナジー分析が必須となります。
株価算定同様、PPA算定者/PPA評価者には事業計画の詳細は通常経営者レベルでの把握は(時間をとらないと)困難です。ただ、買収時に社内資料にて買収によるシナジーを検討する場合があります。PPAにあたっては、シナジー検討資料(DD結果を含む)を経営者と共有し利用することが必要です。
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