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Purchase Price Allocation(PPA) ①評価アプローチ

更新日:2023年6月9日

Purchase Price Allocation(PPA:取得価額配分)における無形資産価値評価を連載します。今回は、①評価アプローチについて、PPAの考え方、公正価値の概念を踏まえて解説します。


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PPAにおける無形資産価値評価は、そもそも特有の論点が多く、また会計基準や適用指針において具体的な算定方法や耐用年数の根拠等の定めもないことから、個々の事案に応じた適切な前提条件や将来予測に基づく、合理的な見積りが必要とされます。


そのため、無形資産評価を行う評価者には、十分な実務経験と財務会計・監査に関する高度な専門性が求められます。K.K.FASは、評価者であると同時に、監査法人の専門家レビューも経験してきており監査法人の監査に耐え得るレベルの専門家性を有しています。


なお、PPA(広義)は無形資産評価のみを意味しませんが、実務的に「PPA」というと無形資産評価を指すことが多いため、解説は無形資産評価についておこないます。


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PPAもバリュエーションであり評価アプローチとしては次の3つが存在します。


・マーケットアプローチ

・インカムアプローチ

・コストアプローチ


こちらはのちほど解説しますが、まず基礎的な考え方、「PPA」「時価=公正価値の概念」を会計基準に照らしてお話します。因みに、PPAで改めて公正価値が強調される(と感じますが)当然IFRS、会計基準において株式価値算定も同じ公正価値概念です。



  公正価値の解説は、PwCKPMGなどが概要説明しています。ご興味ある方はLink先をご参照ください。


PPA(広義)


取得した企業または事業の取得原価は、原則として、取得の対価となる財の企業結合日における時価で算定される(企業結合会計基準23項)。この算定された取得原価を、被取得企業から取得した資産および引き受けた負債のうち識別可能なもの(識別可能資産および負債)にそれらの時価を基礎として配分し、残余をのれんまたは負ののれんとして計上する(企業結合会計基準28項、96項)。これが、広義のPPAです。



公正価値の概念


そして、時価=公正価値です。公正価値の概念は、PPAにかかる無形資産価値評価において基礎となる概念であり、無形資産はこの公正価値の概念に基づき測定されます。

個人的にPPAの実務でその概念が強く現れると感じるのが、後程解説予定ですが、TAB(節税効果)と事業計画シナジーです。



IFRS13号「公正価値」によれば、公正価値とは「測定日時点で、市場参加者間の秩序ある取引において、資産を売却するために受け取るであろう価格又は負債を移転するために支払うであろう価格」とされています。


また、公正価値には主に3つの特徴があります。


① 市場参加者の視点から測定するものであり、企業の意図や能力等の企業固有の視点は反映されない。


② 出口価格であり、入口価格ではない。出口価格とは、例えば資産を売却するための価格のことであり、入口価格とは、例えば資産を購入するための価格。


③ 秩序ある取引を前提として成立する価格、強制売買や投売りで成立する価格ではない。


つまり無形資産の評価(PPA)は、一般的な市場参加者の見地に立って行わなければならないことを意味しています。



日本基準においても、企業結合会計基準102項、103項、企業結合会計基準適用指針53項に同様の内容が以下のとおり規定されています。


公正価値とは


(1)観察可能な市場価格に基づく価額であり、

(2)(1)がない場合には、合理的に算定された価額


しかし、実務的に観察可能な市場価格が無い場合が多い、また、合理的に算定された価額による場合には、一般的な市場参加者が利用する情報や前提等が入手可能である限り、それらに基礎を置くこととし、そのような情報等が入手できない場合には、見積りを行う企業が利用可能な独自の情報や前提等に基礎を置くものとされています(103項)、この合理的に算定された価額の見積る方法にコスト・アプローチ、マーケット・アプローチ、インカム・アプローチが考えられています(企業結合会計基準適用指針53項)。



まずインカムアプローチですが、無形資産価値評価において、最もよく利用されるアプローチです。インカムアプローチには、主に次の3つの評価手法が存在し、それぞれについて紹介します。



・超過収益法

・ロイヤリティ免除法

・利益差分法



超過収益法


超過収益法は、インカムアプローチの中で最も難易度の高い評価手法です。

因みに、超過収益法のモデルをロジックの不整合なく算定できるようになれば、PPAの評価実務におけるスキルはおおよそ身についたと言って良いでしょう。


超過収益法は、将来期間における超過収益を現在価値に割り引いて計算する方法であり、各期の超過収益は下図で示すような形で求められます。


業利益を起点として、その利益の中に含まれる運転資本や有形固定資産等による貢献利益と人的資産に帰属する利益を控除した残余利益が超過収益となります。


つまり、通常事業活動をおこなう上で経営資源が投入されますが、その経営資源に帰属する価値を上回る部分を超過収益として評価する、これが超過収益法のコンセプトです。


実際にモデルにどのように落とせばこのコンセプトを反映させられるのか、目安5回以上は自分で算定しないと難しいです。


また、超過収益法において「人的資産」が登場します。


人的資産は無形資産であり、これは狭義ののれんの一部を構成します。


識別評価できないよくわからないものが狭義ののれんであるにも関わらず、その狭義ののれんの構成要素を定量化し、貢献資産として無形資産の帰属価値から控除しなければなりません。PPAの結果として算出される残余の一部がPPAのプロセスに使用されるという一件奇妙なアプローチなのです。


人的資産は、IFRS・米国基準・日本基準においては、無形資産識別の法的要件や分離可能要件を満たしているか否かに関わらず、狭義ののれんに含めることとされています。



ロイヤリティ免除法


ロイヤリティ免除法は、超過収益法の次によく見かける評価手法になります。


因みに、わたしが2011年に初めて某社買収案件にてPPAを算定した際に使用したのはロイヤリティー免除法でした。


コンセプトとしては単純で、商標権等の無形資産を自社保有することにより浮く、第三者へのロイヤリティ支払分を無形資産に帰属する価値として評価するというものです。

実務的には、各期の売上高に一定のロイヤリティ料率を乗じて算出されたロイヤリティ支払額を現在価値に割り引いて計算します。図にするまでもありませんが、イメージとしては以下の通りです。



計算ロジックは単純なものですが、採用するロイヤリティ料率を過去の類似事例から引っ張ってくるのが実務上一般的であり、この作業が一般に煩雑です。実施率は特許庁の開示資料やロイヤリティーソースなど外部ソースを利用しますが、ロイヤリティ事例を探し出す場合、適当なものがすぐには見つからないケースが多いと思います。その事例を探すために取得したリストに含まれる事例も非常にマニアックである場合が多いです。それをスクリーニングして類似事例をピックアップするのは簡単ではないケースが多いとおもいます。



利益差分法


利益差分法は、将来各期における、評価対象無形資産がある場合とない場合の利益差額を現在価値に割り引いて計算します。こちらもロイヤリティ免除法と同様コンセプトは非常に単純なものになります。


ただ、私はこの評価手法を実務で使用したことはなく、他社の評価書を拝見しても、超過収益法とロイヤリティ免除法で評価されているケースが圧倒的に多い印象です。



ついで、コストアプローチ、マーケットアプローチです。



コストアプローチ


インカムアプローチの超過収益法の説明の際に、超過収益法には人的資産の定量化が必要である旨について触れました。この人的資産の評価は、実はコストアプローチで実施することになります。


(インカムアプローチにおいて超過収益法を使用する場合は、全く別のコストアプローチの使用が必須になるということなのです。)


コストアプローチは基本的にコストの実績を積み上げることで計算します。主には採用コストと研修コストであり、これらを職階ごとにブレークダウンした表を埋めて計算要素を集め、集計して算出する方法が実務上一般的です。


無形資産価値評価においては、基本的に人的資産のみにしか使用されないアプローチであると考えて良いと思います。




マーケット・アプローチ


結論から述べると、無形資産価値評価の実務上、マーケットアプローチが使用されることはほぼありません。米国においては、例えば預金顧客や借地権、フランチャイズ権等の無形資産を、事業から分離・売買するマーケットが確立されている業界もあり、そのような業界においてはマーケットアプローチが適用されることもあるようです。しかし、そもそもマーケットデータの入手困難性が高いことから、上で書いた通り、実務で使用される可能性は極めて低いと認識しています。




資産の特性等により、これらのアプローチを併用又は選択して算定することとなります。ただ、超過収益法は多くても同時2回だとおもいます。(普通は1回)なお、この点について、IFRSと日本基準の基本的な考え方に差異はないものと考えられます。





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