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事業価値算定に関わるポイント 2.類似企業比較法について

更新日:2 日前


前回に引き続きおよそ隔週に渡って、「事業価値算定に関わるポイント」を連載していきます。全体として、以下の構成で予定しています。


1.企業価値評価における事業価値、株式価値          (公開ずみ)

2.類似企業比較法について                  (本日公開) 

3.DCF法および継続価値(ターミナルバリュー)

4.支配権プレミアム&流動性ディスカウントについて

5-1DCF法で使用する割引率(WACC)の計算例

5-2WACC計算におけるリスクフリーレートと負債コストの論点

5-3WACC計算におけるサイズリスクプレミアムの実務

5-4DCF法における期央主義

6.ベンチャー企業のバリュエーションにおける割引率


なお、普段は株価算定結果しかご覧になられてない方には、1.~6.を通して株価算定の枠組みのご理解が頂ければ幸いです。また、これまでわたしが関与・作成した株価算定の仕様書ともいえます。すでにご覧になられた御方には報告書サンプルの解説にもなるかと思います。


それでは、類似企業比較法、最後に「報告書サンプル」の実際の計算例などをお伝えします。なお、事業価値、株式価値、および企業価値の意味は、1.企業価値評価における事業価値、株式価値をさっとご一読ください。 


類似企業比較法とは企業価値評価手法におけるマーケットアプローチの1つで、上場している同業他社(上場類似企業といいます)の株価や財務データ等を使用して計算する価値評価手法になります。


例えば評価対象会社と事業内容が類似する上場類似企業の時価総額が100億円、当期純利益が10億円だった場合、PER倍率(時価総額÷当期純利益)は10倍になります。

この10倍という数字を、評価対象会社、あるいは貴社の当期純利益(例えば1億円だったとします)に乗じることで、評価対象会社、あるいは貴社の価値を10億円(1億円×10倍)と計算する方法になります。


類似企業比較法というのは「同じ業種であれば倍率は、上場類似会社と同じ倍率となるはずだ」という考え方です。

類似企業比較法の種類やその計算式に加えて、最後実際に「報告書サンプル」を使用して計算した実例をご紹介させていただきます。


なお、「マルチプル(法)」というと類似企業比較法のことです。



Pros and Cons (長所短所)


類似企業比較法の長所は、簡単に価値を計算することができることです。


例えば会社四季報やyahooファイナンス等にはPER倍率が載っており、簡単に価値を計算することができます。


市場相場と比較した価値の高低が確認できる。例えば、買収しようとしている会社の倍率が10倍、類似企業倍率が5倍だった時には、明らかに買収対象会社の倍率が高く、高値掴みの恐れがあると分析できます。


他方で短所には以下が挙げられると思います。


企業特有の項目を考慮できない。

類似企業の倍率をそのまま採用する手法であり、評価対象企業、または貴社が同業他社と比較して優れている(劣っている)事情があってもDCF法のFCFや固有のWACC(リスク)を反映することができないことです。



類似企業比較法の種類


類似企業比較法には採用する財務指標等によっていくつかの種類(倍率)があります。


売上高倍率(PSR):事業価値÷売上高

営業利益(EBIT)倍率:事業価値÷営業利益

EBITDA(償却前利益)倍率:事業価値÷EBITDA

PER倍率:株式価値÷親会社株主に帰属する当期純利益


これまで実務で経験する中で、M&Aの時にはEBITDAが、株式アナリストの方が株価を評価するときはPERを重視しているように思います。


PERとEBITDAとの違いですが、前者は純然たる株主への分配利益を対象としているものの、支払利息を控除している、特別損益や営業外損益を控除している、という意味で、資本構成(負債の多寡)、本業で正常に獲得しない利益(本業で正常に発生しないロス)を加味していることです。


事業価値は、事業の正常なキャッシュフローで求めることを前提とする場合、PERよりもEBITDAやEBITのほうが平仄がとれると考えることができます。


また、IPO前のスタートアップの場合、まだ利益が出ていない場合にPSRを用いるケースがあると思います。



備考 価値と財務指標の関係


類似企業比較法を行う際には価値と指標間の関係があります。


株主に帰属する指標(親会社株主に帰属する当期純利益や純資産)は、株主に帰属する価値である株式価値と比較


本業に帰属する指標(売上高、営業利益(EBIT)、EBITDA)は、事業の価値である事業価値と比較




類似企業比較法の計算手順


ここでは、M&AにおけるEBITDA倍率の事業価値を用いた類似企業比較法の計算順序を説明します。なお、コントロールプレミアム、マイノリティーディスカウントや非流動性ディスカウントは別途考慮が必要です。


ⅰ上場類似会社の時価総額の計算(※)

ⅱ上場類似会社時価総額に上場類似会社の非事業用資産、有利子負債を調整し、上場類似会社の事業価値を計算(※)

ⅲ場類似会社の事業価値と財務指標を用いて、上場類似会社の倍率を計算(※)

ⅳ買収対象会社の財務指標とⅲの”上場類似会社の”倍率を用いて、買収対象会社の事業価値を計算

ⅴ買収対象会社の事業価値に、買収対象会社の非事業用資産、有利子負債を調整し、買収対象会社の株式価値を計算


事業価値を用いた倍率の場合は、非事業用資産、有利子負債の調整が入ります(※)が、PER倍率等であれば、非事業用資産、有利子負債の調整は省略となります。


(※)KKFASは素早く、正確に集計することができます。



「報告書サンプル」における類似企業比較法の計算例


報告書サンプル(2021年版:やや古いですが変更点はありません)です、なお、実際の算定計算ですが、実際の類似会社名、基準日などはマスクし、対象会社が判明しないように無毒化しています



主たる前提条件は以下の通りです。


上場類似企業(注):対象会社と同じ業界に属する上場会社 5社(2社は不適格除外)

採用した倍率:EBITDA倍率

(上記の計算イメージでは説明を省略しましたが、非支配株主持分を考慮しています。)

上場類似企業の非事業用資産:現預金及び有価証券

上場類似企業の株価:2021年●月~2021年●月までの単純平均

上場類似企業の発行済株式数(自己株控除後)、BS情報等はLTM(最近の四半期決算書または有報から引用)

上場類似企業のEBITDA:予想値を採用

上場類似企業の各倍率の中央値を採用

なお、前提条件(詳細)はすべて報告書Notesに掲載します(客観性を高めます)。


(注)上場類似会社の選定は非常に重要なポイントです。KKFASでは、再実施が可能(客観性が高い)です。なお、スタートアップの場合、どの類似会社へ事業が収束するかIPOまでに検討することになります。これだけでひとつの論点となり、また算定者や関連プレーヤーのノウハウでもあるため実際の算定の際に詳しくお話します。




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