top of page
執筆者の写真Shuichi Kobayashi

J-KSSとシリーズA調達(研究報告第70号解説シリーズ)

事業価値算定に関わるポイント 6 スタートアップ企業の割引率(シード・アーリー期において、経営研究調査会研究報告第70号スタートアップ企業の価値評価実務 2023年3月16日 日本公認会計士協会(以下、研究報告第70号)を踏まえた更新記事をこれまで発行しています。




今回は、「J-KISSとシリーズA調達」と題しまして、仮想ですが、具体的に、資本政策表、JKISS契約書、シリーズA調達株式発行要領を用いて、JKISSとそのセットとなるシリーズA調達について研究報告70号の掘り下げを行い、すこしでもシード・アーリー期の資金調達実務に寄与できればと思います。


ネット検索したところでは、具体的なイメージを想起できるものが少ないと思いましたので、それを補えればと思います。ただし、最新のJKISS契約書(ひな型)や、登記実務などは弁護士、司法書士等へお伺いくださいね。



なお、研究報告70号は、スタートアップの株価算定において日本公認会計士協会が一定のガイドラインを示す目的で発行している研究報告であり、これを踏まえた株価算定はその信頼性を高めると考えます。




さて、JKISSとはアメリカで普及している投資契約書「KISS」の日本語版です。


スタートアップがシードステージの段階で資金調達を行う際の資金調達方法のひとつです。投資家からは、コンバーチブル投資手段であり、スタートアップが新株予約権を発行し、投資家がこれを有償取得します。簡単に言うと、将来株式をもらえる(株主になれる)権利の発行と取得を指します。 権利の発行段階ではまだ株主になっていませんが、将来的に一定の条件を満たした段階で株式と交換してもらうことにより、株主になれるという権利になっています。そして、「シリーズA調達」がその将来条件として想定されています。



研究報告70号は、JKISSにつき、およそ以下の解説がなされています。



Ⅷ 進化するスタートアップ企業の資金調達と評価上の対応


1.スタートアップ企業の資金調達の進化


(1) 資金調達多様化の背景 スタートアップ企業の資金調達が困難である要因としては、以下の問題点が一般的に指 摘される。


① スタートアップ企業の価値判断が難しい。 ② 多額の資金を普通株式で調達すると創業者の持株比率が低下する。 ③ スタートアップ企業に対し、普通株式又は種類株式の発行時のようなデューデリジェ ンスの実施は難しい。 ④ VC等が高い評価額で普通株式へ投資している場合には、M&Aが発生したときに創業者 の得る利益に比較してVC等の投資リターンは見劣りするものとなる。 ⑤ 借入又は新株予約権付社債では、支払利息の発生及び負債計上による財務内容の悪化 が発生してしまう。


上記の問題点を克服するために、スタートアップ企業の資金調達においては様々な工夫 が行われてきた。例えば、普通株式への転換権を付与した優先株式やみなし清算条項付き の種類株式の利用がその例である。また、近年では、転換価額の算定式のみが設定された 新株予約権等により資金供給を行い、将来企業価値評価の正確性が高まったタイミングで 株式転換を行う「コンバーティブル投資手段」の有効性が着目されている。


(以上、研究報告70号より抜粋)



事業価値算定に関わるポイント 6 スタートアップ企業の割引率(シード・アーリー期でスタートアップの株価算定をについて書いていますが、とりわけシード期のスタートアップの株価算定の前提は非常に「曖昧」、事業計画の未成熟さ、事業自体の不透明さゆえ、株価算定自体が困難です。(実際、目にしません。)

そのため、シード期では、「株価算定を一旦保留」して資金調達を行うことができれば、それが、投資家、スタートアップ双方のリスク・リターンを考慮してできれば、WinWinですね。


なお、経済産業省からコンバーティブル投資手段の活用ガイドラインも出ています。画像にそのLinkを張っています。



さて、再度、研究報告70号に戻ります。




新株予約権型資金調達(J-KISS型新株予約権方式)


新株予約権付社債(CB)又は新株予約権付借入(CN)のデメリットである負債計上を 是正し、返済不要のエクイティでの資金調達として考案された資金調達手法である。発 行企業の株式評価の難しさを回避するため、次回の資金調達における評価額で割当株式 数が決定されるとしている点及びM&A等における投資回収への配慮も行われている点が 特徴的である。


転換価格後決め資金調達の概要


J-KISS型新株予約権方式による資金調達の概要をまとめたのが下表(以下)である。


【図表Ⅷ-1 J-KISS型新株予約権方式による資金調達の概要】


(1) 転換時における交付株式数と転換価額 転換時における交付株式数を、次回の資金調達ラウンドの発行価格をベースとして決定する点が特徴である。

具体的には、以下(a)と(b)のうちいずれか低い額(小数点以下切 上げ)を「転換価額」とし、新株予約権発行価額を「転換価額」で 除して転換株数を計算する。 (a) ディスカウント価格(次回資金調達ラウンドの株価に例えば 0.8を乗じた金額(b) キャップ価格(新株予約権発行時の評価額上限額を資金調達 ラウンドの直前の完全希釈化後株式数で除して計算する。)

(2) 権利行使に際して出資すべき価額 1円

(3) 権利行使時期  割当日の翌日以降、いつでも行使することができる。

(4) 行使条件  次回株式資金調達が発生するか、又は過半数の本新株予約権の保有者がこれを承認した場合に可能

(5) 取得条項  支配権移転取引等を行うことを決定した場合には、発行価額の2 倍で買戻し。


(ただし)次回調達ラウンドまで評価の問題を後送りできるとしても、キャップ(評価額上限額) に関しては、発行企業と投資家の間で合意が必要となっている。一般的には、次回調達ラ ウンドにおける想定を基にキャップ(評価額上限額)は決定されている。


(以上、研究報告70号より抜粋)




以上を踏まえ仮想ですが、資本政策表、JKISS契約書、シリーズA調達株式発行要項を踏まえて、シード(JKISSおよびその前後)、シリーズA調達の状況を、時系列で解説します。


なお事例の想定ですが、シード期にJKISSによる資金調達を5000万実施し、その前提としていたシリーズA調達が1年後に無事実施され、シリーズA調達が2億円実施されたケースとします。なお、その他のケース(シリーズA調達の未実施、シリーズA調達までのM&A等)は今回省略します。




プレシード(JKISS前)

JKISS実施まえは、シードの前を仮に「プレシード」とし、2人のスタートアップのオーナーのみが、(オーナーA,オーナーBの順で出資)自分たちだけで払込をした状況です。なお、ここでのオーナーは共同経営者、共同設立者のいみです。



シード(JKISS実施時)


JKISS実行時、新株予約権が発行されVCのABCが5000万円を払込ました。資本政策表ではこうなります。つまり、JKISS実施時点では、その時点のポスト、プレいずれのバリュエーションもありません。プレシードの株価1000円(1000万円÷1万株)で据え置きです。

ただし、シリーズA調達を想定して、キャップ(評価額上限額)は決定されます。これが実質的なJKISS時のポストバリューになりえます。




JKISS 契約書



以下、JKISSひな型を用いた、想定契約書(一部)です。契約内容は想定です。




説明:ここでは、1個あたり100万円の新株予約権が50個発行され、5000万円の払込みです。シリーズA調達想定時の目的である株式は、普通株式あるいは種類株式想定が記載されています。


説明:シリーズA調達を想定して、キャップ(評価額上限額)は3億円と決められています。これはJKISS時決めないといけない。ただ、正確なバリュエーションは当然ありませんので、「エイや」的な握りで決まると思います。この3億円はわたしが勝手に「エイや」で仮想設定しました。





シリーズA調達時点



事業が上手く運び、シリーズAが1年後無事実施された想定です。JKISSで5000万円を出資したVC ABCは、新株予約権を行使し、種類株式を1,667株を得ます(詳細後述)。


シリーズA調達は、新規投資家が2億円払込、2500株を引受する想定です。


では、今回VC ABCが、シリーズA調達時に取得する株式数をみていきましょう。シリーズA調達の株式発行要領の想定は以下です。順調に事業が伸びた前提です





JKISS時の新株予約権の行使にともなう株式の発行数 「転換価格



評価上限額(y)

〇 300,000,000円÷完全希釈化後株式総数10,000株 =30,000円


次回株式資金調達(x)

✖  新規調達払込価格 80,000円×0.8= 64,000円 


(30,000円 < 64,000円)


ゆえに、交付株式数


50,000,000÷30,000円 = 1,667株  となります。








この想定事例をすこしおさらいしましょう。



JKISS実施時


スタートアップは、5000万円の資金調達を実施し、VC(ABC)は、新株予約権50個を取得しました。このとき、バリュエーションは据え置かれました。ただ、キャップ(評価額上限額)は3億円と決められています。


シリーズA調達時


シリーズA調達時は、バリュエーションが実施され、プレバリューで80,000円の一株当たり株式価値が算定されています。シリーズA調達時には追加の2億円が新たな投資家から払い込まれ、JKISSで出資したVC(ABC)は、実質30,000円の株価を80,000円まで増加させる便益を得ました。



このように、JKISSでは、スタートアップがブリッジとして5000万円調達でき、VC(ABC)は、一株50,000円のキャピタルゲイン相当を得たことになります。WinWinの想定ですね。



シリーズA調達時の株価算定


シリーズA調達時には株価算定を必要とします。シリーズA調達時の株価算定メニューはこちらです。K,.K.FASでは、以下のガイドライン等にも則り、15年以上の経験をもってその支援を実施いたします。


企業価値評価ガイドライン 第32号

種類株式の評価事例 第53号

無形資産の評価実務―M&A会計における評価とPPA業務― 第57号

スタートアップ企業の価値評価実務  第70号










閲覧数:22回0件のコメント

コメント


bottom of page