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事業価値算定に関わるポイント 3.DCF法 と 継続価値(ターミナルバリュー)

更新日:4月15日


隔週に渡って、「事業価値算定に関わるポイント」を連載していきます。全体として、以下の構成で予定しています。今回3回目です。なお、更新版になります。後段の永久成長率など更新しています。


3.DCF法 と 継続価値(ターミナルバリュー) (更新公開)

4.支配権プレミアム&流動性ディスカウント

5-1DCF法と割引率(WACC)について

5-2WACC計算 リスクフリーレートと負債コストの論点

5-3WACC計算 サイズリスクプレミアム

5-4DCF法 期央主義

6.ベンチャー企業のバリュエーションにおける割引率


普段株価算定結果しかご覧になられてない方には、枠組みのご理解が頂ければ幸いです。

また、これまで関与・作成した株価算定の仕様書ともいえます。


それでは、本日はDCF法とその核心部分ともいえる継続価値(ターミナルバリュー)についてお伝えしていきましょう。


なお、DCF法、事業価値については、1.企業価値評価における事業価値、株式価値をご一読ください。


さてDCF法では、通常「永久に」事業活動を行う企業・事業を前提として事業価値評価を行うため、事業計画期間以後の期間についても価値評価の対象とします


そして、継続価値とは、DCF法における事業計画期間「以後の期間(継続期間)の価値の合計」のことを指します。


継続価値はTerminal Value(ターミナルバリュー/TV)とも呼びます。



DCF法では、継続価値は、価値の過半数(60%~80%程度)を占めることが通常です。


また、事業計画が当初赤字の場合事業価値の100%以上をTVが占めるケースもありえます


継続価値で事業価値が決まっていると言えなくもありません。なので、計算を間違えると事業価値計算を大きく歪めます(※)。また、事業計画期間中の計算式とは算式が異なるため、間違いが発生しやすい項目です。



******** 更新コラム:ヒヤリハットのターミナルバリュー ********


DCF法は、WACCの算定などは複雑かつ手間のかかる下準備が必要ですが、IRRの計算同様に割引率さえ簡易に設定すれば比較的容易に計算できます。


IPOの準備に携わる経理財務ご担当の方には自社の株価をDCF法で計算できる方もいらっしゃると思います。


IPOの準備経験のある方のスプレッドシートは、拝見すればそのレベルがおよぞ理解できます。例えば、BSの計画まで組まれているスプレッドシートを作成される方は相当実務レベルが高いといえます。


そのレベルのスプレッドシートで株価がシュミレーションされていると「私の出る幕はないですね。」と思う時があるのですが、その場合でも、ターミナルバリューを割引いていないケースがありました。(ヒヤリハットでしたでしょうね。)


それから、これはわたし自身のヒヤリハットです。簡易なDCF計算では、ターミナルバリューを最終計画年度のFCFと合わせて割り引く式をいれているケースがあります。つまり、計画期間の最終年度以外は各年度のFCFのみを割り引く式となっています。


ほんの数分でシュミレーションを行っているとき、計画期間を変更するときがあるのですが、計画期間を1年短縮した際に、ターミナルバリューは計算されているものの、その割引式をわすれたときがありました。 ヒヤリハットでした 汗


慣れてくる時が危ないですね。        


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さて、継続価値の計算方法を解説するとともに、計算も紹介していきたいと思います。



継続価値とその前提


通常DCF法では、企業は「永久に」事業を継続すると仮定(永久なんて・・・、という仮定ですが後で計算を見ると、「まあそうか」と合点いく点もあります)するため、企業が生み出す価値は永久の期間を想定して計算します。


「永久の期間」を想定してキャッシュフローを見積もるのですが、使用する事業計画(期間)は通常およそ3期から5期です。なおM&Aにおいて時に事業計画が用意されていないケースもあります。その場合、事業計画は過去の正常収益力を参照するケースもあります。



ですので、DCF法による価値は、3~5年間の事業計画期間から生み出される価値(上の図t+1 ~ t+3 )と、事業計画期間以後の期間である継続期間から生み出される価値(上の図、t+4 ~ t+7 +・・・・のイメージですね)で計算されます。


事業計画期間の価値は事業計画値に基づいて計算するのに対して、継続期間は、キャッシュフローが一定の成長率(永久成長率と呼びます)で成長する(上図t+4以降定率成長のイメージ)。


あるいは永久成長率ゼロと仮定して計算します。日本では実務的に「一定すなわち永久成長率ゼロ」あるいはインフレ率の範囲内が(きわめて)多いように思います。




********* 日本のインフレ予測 ~2028年 **************


インフレ率を永久成長率に参照することは理論的にも実務的にも「あり」ます。特にIn-OutのM&Aにおいて海外企業のバリュエーションでは多く、ここ数年ではインド、中東などのケースでインフレ率を採用したケースがありました。


さて、日本ではわたしの経験でもインフレ率を使用し永久成長率を0%を超えて採用するケースは「(ほぼ)ない」とおもいます。これまでデフレが長く続いていましたし、当然といえば当然な気がします。


他方、IMFの日本のインフレ率をみると、なんと、2022年以降は1%を大幅に超える予想となっています。以下、2024年4月4日時点のIMFのデータです。




参考国に、中国と米国(あとタイ)をとっています。米国はさすがに高い(この3年は4%~7%)ですが、2028年は2%、中国も2%、これに対し日本は1.6%と3国あまりかわらない。


このマクロ環境を加味すると、日本でも1%程度の永久成長率を採用するほうが合理的だとおもわれます。


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なお、成長率や割引率に一定幅を持たせる感応度分析で織込むケース(ゼロ成長を前提に+-1%、+-0.5%成長などを想定するケース)も実務的にあります。


継続価値は、継続期間(t+4以降)のキャッシュフローを「永久に計算した場合」の割引現在価値合計(ここが、ポイントですね)で計算します。



継続価値の計算式



継続価値は、一定の永久成長率での成長と、一定の割引率での割引計算で計算されるため、数学の無限等比級数の和の公式(ここも、ポイント)を用いて計算します。


無限等比級数の和の計算式は以下の通りです。




FCF=フリーキャッシュフロー(上記のt+4)

r=割引率

g=永久成長率



例えば、

FCF(t+3)=100百万円(1億円)

r=10%

g=0%


の場合の結果は1,000百万円(10億円)(100/10%)になりますが、継続期間10年目(10期=t+13)までのFCFを図解すると以下の通りです。

すいません、数字ちっさいですが、10期目(t+13)での累計は644.4百万円(6.4億円)です。


ちなみに30期(t+33)までだとこう。右下の吹き出しでも書きましたが、継続価値30期(t+33)でのFCF100百万円の割引後の価値は、5.1百万円になります。つまり、永久に継続すると前提を置いても、割引によってFCF100百万円の価値は限りなく小さくなっていきます。


因みに、30期(t+33)までの割引FCFの累計による継続価値は985.8百万円(9.8億円)ほぼ30年の継続前提でも1000百万円(10億円)に近いですよね。ですので、「30年継続する前提」であっても実際は同じようなものといえますよね。。これがミソですね。


(それ以降青色の金額を「永久に」計算して合計すると1,000になるということです。)



では最後に、サンプルでDCF法結果と継続価値を見てみます。



FCF(TV) : 1,293,321

r(WACC)=9.67%

g=0


TV現在価値 9,461,292     

事業価値  9,887,545


TV現在価値÷事業価値=9,461,292÷9,887,545=96% 


このように、事業価値に占める継続価値は96%と非常に大きな割合を占めることが判りますね。これはやや極端な例ではあります。


この時は、事業計画がかなり強気で出されましたが、買い手サイドとしては過去の実績に波があるなど不確実要素を踏まえ、成長率はゼロと設定しました。


ではまた。







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