前回①評価アプローチでは、PPA(無形資産価値評価)の各種計算手法について紹介しました。今回は、評価手法で算定された結果に全体的な矛盾はないかを検討するWACC、WARA、IRR分析を解説します。PPA特有の基礎論点であり、かつ奥深いため今回は「概要」です。次回、追加論点を解説します。

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PPAにおける無形資産価値評価は、そもそも特有の論点が多く、また会計基準や適用指針において具体的な算定方法や耐用年数の根拠等の定めもないことから、個々の事案に応じた適切な前提条件や将来予測に基づく、合理的な見積りが必要とされます。
そのため、無形資産評価を行う評価者には、十分な実務経験と財務会計・監査に関する高度な専門性が求められます。K.K.FASは、評価者であると同時に、監査法人の専門家レビューも経験してきており監査法人の監査に耐え得るレベルの専門家性を有しています。
なお、PPA(広義)は無形資産評価のみを意味しませんが、実務的に「PPA」というと無形資産評価を指すことが多いため、解説は無形資産評価についておこないます。
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PPAの考え方に戻りますが、PPA(広義)は、
『取得した企業または事業の取得原価は、原則として、取得の対価となる財の企業結合日における時価で算定される(企業結合会計基準23項)。この算定された取得原価を、被取得企業から取得した資産および引き受けた負債のうち識別可能なもの(識別可能資産および負債)にそれらの時価を基礎として配分し、残余をのれんまたは負ののれんとして計上する(企業結合会計基準28項、96項)。』でした。
これをM&Aにおける株価算定に照らすなら、「取得した企業または事業の取得原価」が株価算定結果と一致または近似します。そして、株価算定ではWACCを用います。
そのWACCは、取得した企業または事業の資本コストなわけです。
他方、PPA(広義)、この算定された取得原価を、被取得企業から取得した資産および引き受けた負債のうち識別可能なもの(識別可能資産および負債)にそれらの時価を基礎として配分し、残余をのれんまたは負ののれんとして計上する。
株価算定において求められる[企業価値]は、総資産の個別資産に配分され、総資産は企業価値と一致します。


つまり、被取得企業の調達サイド(負債+自己資本(株式価値)と、資産サイド(時価総資産)は時価ベースで貸借バランスします。
そのため、WACC(加重平均資本コスト)と加重平均資産収益率は一致します。この加重平均資産収益率をWARA(Weighted Average Return on Assets)といます。

各資産の期待収益率と加重平均と、WACCは上図のイメージになります。
WARA
WARAはPPAの時しか議論されることはまずないので、公認会計士でもPPAに関与されていない方には慣れないものだと思います。
WARAの算定は、超過収益法による無形資産の計算と同時に行うこと(例えば、顧客関連資産を超過収益法で算定する際に、人的資産を含む各資産の貢献コストを控除計算しますが、その際に各資産の期待収益率を利用する)が特殊です。
また、株価算定業務でWACCで必要となる各インプット(ERP,レバートβ、小規模リスク等)の採取ルールがおよそ(少なくともFAS部門にて株価算定業務をされている方には)確立・周知されているのに対し、PPAの各資産の期待収益率の決定は株価算定業務を行っている方でも決定方法がわからない方が多いと思います。
最後、IRRですが、株価算定においてWACCが算定されますが、株価算定における株式価値と、実際の買収における取得価額が「同じ」である場合、当然IRRとWACCは同じです。

ただし、株価算定結果は多くは感応度分析における範囲内で決定されることが多いと思いますし、買収価格はひとつに決まりますので、IRRは必ずひとつに決まるわけですが、WACCが感応度を決定している要因である場合で、買収価格が株価算定結果の範囲内であれば、IRRはWACCの範囲内にあります。この範囲内であれば、IRRとWACC(WACCが適切に算定されている場合ですが)は公正価値を反映していると「主張」してよいです。
他方、株価算定結果と買収価格を並べた時に、差が出る場合、IRRとWACC(WARA)とは差が生じます。次回は、その差について触れたいと思います。
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