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事業価値算定に関わるポイント 5-1 DCF法と割引率(WACC)について

更新日:2023年12月7日



株価算定、割引率と言えばWACCです。加重平均資本コストです。


今回は、簡略化のために、一部は省略して説明しますが、(大手)監査法人の監査でも耐えれる品質のWACC算定の手順とコンポーネントを含めて解説します。なので、すこし、長いですが、具体的な産業、会社名と最近(2023年8月13日ベース)の数字で説明します。興味ある方は読んでください。




ちなみに、シリーズ「事業価値算定のポイント」は、以下の章立てです。



4.支配権プレミアム&流動性ディスカウント

5-1DCF法と割引率(WACC)について    (本日公開)

5-2WACC計算 リスクフリーレートと負債コストの論点

5-3WACC計算 サイズリスクプレミアム

5-4DCF法 期央主義

6.ベンチャー企業のバリュエーションにおける割引率



DCF法はその名の通り、キャッシュフローの割引計算を行う評価手法ですが、どのようなキャッシュフローを割り引くのかで大きく2つに分けられます。以下、3.DCF法 と 継続価値(ターミナルバリュー) で説明した図で説明しています。


エンタープライズDCF法:株主と債権者に帰属するキャッシュフローであるフリーキャッシュフローを割り引く



エクイティDCF法:株主に帰属するキャッシュフローを割り引く



エンタープライズDCF法では、株主と債権者に帰属するキャッシュフローである、フリーキャッシュフローの割引計算を行うため、株主と債権者に支払うコストである自己資本コストと、負債コストで加重平均したWACCを採用することになります。



エクイティDCF法では、株主に帰属するキャッシュフローを割り引くため、そこで採用する割引率は自己資本コストになります。


因みに、関与させて頂くことの多い多いSaaSの会社は前受金ビジネスの特徴から、(将来的に収束される資本構成は)負債比率がゼロのケースが多く、実質的にエクイティDCF法になっています。結論、高い割引率になります



なお、一般的に何の前提条件もなくDCF法といえば、通常はエンタープライズDCF法になります。



WACCの計算方法



今回は事例として自動車(国内)のWACCを計算してみたいと思います。ちなみに、2022年度、世界で一番売れた上位30位の🚗クルマ、2023年8月13日のYahooニュース見ました。個人的に 意外 でした。皆さんはどうおもわれますでしょうか。



WACCを計算するときにはマーケットから様々な情報を取得する必要があります。



資本構成等については、自社が上場会社の場合、自社のデータや、評価対象企業と事業等が類似している上場企業(上場類似企業)のデータを採用することになります一般的です。


今回は、自動車(国内)にてみました。ということで、以下の企業を上場類似企業に選定しました。





自己資本比率、負債比率(資本構成)の計算方法


資本構成は、自己資本と有利子負債の比率で計算しますが、ここで重要なことは簿価ではなく、時価ベースの比率を計算することです。


時価総額は、株価 x 自己株式控除後発行済株式数で計算します。


有利子負債についても上述の通り、原則的には時価であるべきですが、有利子負債については、時価と簿価で大差がないと考えられることから、一般的には簿価が採用されます。


今回選定した上場類似企業の資本構成は以下の通りです。

(2023年8月13日の時価総額と、2023年3月期の負債での比率)


株価については、ヤフーファイナンスなど、株式数、BS情報については、決算短信や有価証券報告書等から引用できます。



自己資本コストの計算方法


企業価値評価においては一般的に Capital Asset Pricing Model、略してCAPM(シーエーピーエムやキャップエムと読みます)で自己資本コストを計算することが一般的です。



CAPMの詳細についてはおいおい別途解説しますが、その計算式は以下の通りとなります。



自己資本コスト=リスクフリーレート+エクイティリスクプレミアム x ベータ +アルファ



新しい用語が出てきていますが、それぞれ簡単に説明します。


リスクフリーレート:その名の通り、リスクがない債券の利回りです。代表的には国債の利回りです。


エクイティリスクプレミアム:リスクフリーレートを超過する株式市場のリターンです。Ibbotsonという情報ベンターが提供する情報が有名です。最近はプル―タスコンサルティングのものも使われている気がします。


ベータ:ある企業の株価の変動性と株式市場のインデックス(例えばTOPIX)の変動性の相関関係です。



(トヨタ自動車の2023年8月13日時点の過去5年週次のレバートβ)


ある企業の株価とインデックスの共分散を、インデックスの分散で割ることで計算します。


例えばベータが1だと、TOPIXが10%上昇/下落した際に、その企業の株価も10%上昇/下落するということであり、ベータが0.8の場合はTOPIXが10%上昇/下落した際に、その企業の株価は8%上昇/下落するということです。


今回のβ値(週次)を以下に集計しています。2年週次と5年月次をとりました。


まず2年週次、トヨタは、1.324、なので13.24%上昇/下落します。マツダは15.09%上昇/下落します。


次いで、5年月次、トヨタは9.39%、マツダは16.16% 変動幅にはかなり差があります。


(2023年8月13日時点)



ベータが高い(低い)企業は、株式市場の変動と比較してより大きく(小さく)株価が変動するため、事業のリスクが高い(低い)、つまり自己資本コストが高い(低い)と判断します。今回の数字では、5年月次でみるとトヨタは低く、マツダは高いです。


アルファ(省略):上記3つの指標で捕捉できないリスクに対するリスクプレミアムです。評価人の判断に基づき考慮する/しないを決定します。評価対象企業の規模が小さいことによる追加的なリスクプレミアムであるサイズリスクプレミアムなどがあります。今回は省略します。しかし、ある程度“しっかりした“株価算定では、サイズプレミアムもバックデータを基に含めて計算します。大手法人ではIbbotson Assosiate Japanより採取しています。わたしも採取します。



今回の計算ではそれぞれ以下のパラメータとしました。


リスクフリーレート:2023年7月末の10年物国債の利回りを参照し0.605% (数年ず~っとあがってますね)


エクイティリスクプレミアム:6.0% とします。(実際の算定ではIbbotson Assosiate Japanから求めます)


ベータ:簡便に上場類似企業の2023年1月10日より前の5年月次のベータ(レバードβ)の中央値1.27

としました。


アルファ:簡便にゼロとしました。



自己資本コスト=リスクフリーレート+エクイティリスクプレミアム x ベータ +アルファ



これらに基づき今回の自己資本コストを計算すると、以下の通り、8.23%となりました。



負債コストの計算方法


対象会社の負債コストを計算します。


対象会社の実際の借入利率を使用することもあるのですが、今回は架空の事例であるため、日本証券業協会が公表して情報より2023年7月31日BBB格の1.263%としました。


なお、WACCで使用する負債コストは節税効果を織り込む必要があるため、税引後の負債コストは税率を30%と仮定した0.88%としました。




WACCの計算


各種パラメータを整理すると以下の通りとなります。


自己資本比率:59%

有利子負債比率:41%

自己資本コスト:8.23%

負債コスト:0.88%


以上より、今回の自動車産業に属する架空の対象会社のWACCは



59% x 8.23% + 41% x 0.88% =5.21%



と計算されました。ちなみに約半年前に計算したときは4.48%でしたので、その際より16%上昇しています。


計算した結果としては(やはり)低いなという感触です。



といいますのは、通常わたしが見る株価算定には“アルファ”部分、サイズリスクプレミアム(4%~10%)が加算されること、あと最近、負債比率の低い算定結果が(たまたま)多かったので、加重平均で「下がったな」と思いました。



最後おまけ、米国テスラ社の資本構成とWACCです。



時価総額770,170百万ドル(2023年8月13日)、有利子負債5,811百万ドル(2023年6月)ほぼ自己資本コストです。


βは1.56、およそWACCは、ERPを6.0%とした場合9%ですね。



(2023年8月13日時点のレバートβ)

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