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事業価値算定に関わるポイント 4ー②.非流動性ディスカウント

更新日:3月20日


今回は、前回支配権プレミアムに続き「非流動性ディスカウント」です。


非流動性ディスカウントに関しては令和5年5月に新しい最高裁判例が出たことは今後に影響を与えるとおもいます。これについては後述します。


さて前回は、DCF法や類似会社比較法で算定した株式価値が、誰の株式価値か、支配株主なのか、少数株主なのかのポイントで必要になるポイントでした


ちなみに、「事業価値算定のポイント」は、以下の章立てです。


4.支配権プレミアム&流動性ディスカウント

4-2 非流動性ディスカウント        (本日公開)

5-1DCF法と割引率(WACC)について

5-2WACC計算 リスクフリーレートと負債コストの論点

5-3WACC計算 サイズリスクプレミアム

5-4DCF法 期央主義

6.ベンチャー企業のバリュエーションにおける割引率


非流動性とは、簡単には「その株式はすぐに譲渡換金できない」という意味です。上場株は通常市場価格で日々売買(譲渡)が可能です。つまり、換金可能です。



しかし、非上場株は、無理ですよね。すぐ換金が出来ることも、「価値」であり、換金がすぐ出来ない分、割引く、ディスカウンするわけですね



もうすこし言い方を変えると、買い手候補を探す時間と手間、その交渉に費やす時間と手間、 アドバイザリー(FA)手数料等の取引コストが発生します。まさにM&A、また、資金調達の時ですね!

買い手が再度売却を想定する場合、売却のための追加コストとして考慮するともいえます。



以下、4-1 支配権プレミアム(マイノリティーディスカウント)を説明した際の、図に、今回の非流動性ディスカウントを加味した図です。



因みに、少数の株式を売却するよりもボリュームの大きい株式の方が、売却は容易とも考えられます。そのため、支配持分の非流動性 ディスカウントは、少数持分の非流動性ディスカウントと比べて、低いと言われます。


米国の事例では、支配持分の非流動 性ディスカウントは10~25%、少数持分の非流動性ディスカウントはおよそ、30~50%とされています。 (以下はValuationAdvisory2016)


また、個別案件の事情で、50%近い非流動性ディスカウントをエビデンスベースで実施するため、以前米国の実証データをとりました(以下そのときの履歴ですが)




ただし、日本の実務では、30%(未満)を使うことが実務上多いと思います。



さて最高裁判所です。


令和5年5月24日に「 会社法144条2項に基づく譲渡制限株式の売買価格の決定の手続において裁判所が上記売買価格を定める場合に、DCF法によって算定された上記譲渡制限株式の評価額から非流動性ディスカウントを行うことができる」旨を判示(「令和5年最決」)しました。



他方


これまではセイコーフレッシュフーズ事件(平成27年3月26日最高裁決定「セイコーフレッシュフーズ最決」)があります。類似会社比較法は上場類似会社の時価を反映しているため非流動性ディスカウントは考慮できるが、収益還元法(インカム・アプローチ)においては非流動性ディスカウントを行うことはできないとされたものでした。


セイコーフレッシュフーズ最決では、吸収合併決議に実質関与できない少数株主に対して、「自らの意思で売却を望んだものではない」立場が考慮され、退出を選択した少数株主の利益を保護する視点がありました。


最高裁判例の影響をうけ、これまで実務上はインカム・アプローチによる株式価値の評価には非流動性ディスウントを考慮しないケースもおおくありました。


しかし


公正価値の前提には、買い手・売り手固有の事情は考慮しないというポイントがあります。

また、DCF法は、WACCで割引いて算定します。

WACCは、上場類似会社のリスクを考慮したものであるため、類似会社比較法同様、市場のリスクを反映しているため、インカムアプローチだから非流動性リスクを考慮しないことは理論的にも矛盾があります。


さて


令和5年最決ですが、「会社法144条2項に基づく譲渡制限株式の売買価格の決定の手続は、株式会社が譲渡制限株式の譲渡を承認しない場合に、譲渡を希望する株主に当該譲渡に代わる投下資本の回収の手段を保障するために設けられたものである。そうすると、上記手続により譲渡制限株式の売買価格の決定をする場合において、当該譲渡制限株式に市場性がないことを理由に減価を行うことが相当と認められるときは、当該譲渡制限株式が任意に譲渡される場合と同様に、非流動性ディスカウントを行うことができるものと解される。このことは、上記譲渡制限株式の評価方法としてDCF法が用いられたとしても変わるところがないというべきである。」というものです。


144条2項は、買い取り請求に際して売却価格の申し立てができる条文です。


判例分はシンプルに、


譲渡制限株式に市場性がないことを理由に減価を行うことが相当と認められるとき


非流動性ディスカウントを行うことができる


DCF法が用いられたとしても変わるところがない(非流動性ディスカウントを行うことができる)


というものです。



ですので、インカム・アプローチであっても市場性がないことを理由に減額を行うことが相当と認められるとき、非流動性ディスカウントを行うことができる。と。




おさらいですが。このように、DCF法で割引というと、(通常)WACCとなりますが、WACC以外に、少数株主の価値を出すときは、4-1マイノリティーディスカウント、さらに、M&Aや、資金調達(特にレーターステージ以降)では、今回の非流動性ディスカウントで、「さらに割り引く」必要があることを先に解説しました。どちらも30%加味すると結論役50%オフのイメージですね。



ではまた。




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