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事業価値算定に関わるポイント 5-3 サイズプレミアム

更新日:3月22日

WACCの構成要素の掘り下げ論点の1つであるサイズリスクプレミアムについてお話します。(「算定実務者向け」の話になります)



(補足と更新)サイズリスクプレミアムをERP×β以外の追加リスク要因として書き出しています。厳密には、「マルチファクター」(ERP×βを対比でシングルファクターに対し)モデルの理論(ファーマ・フレンチ型3ファクターモデルなど)があります。つまりは、ERP×β以外に「(追加複数の)固有のリスクプレミアム」を考慮するわけです。しかし、実務的には「固有のリスクプレミアム」は国内の株価算定を考えれば、サイズリスクプレミアムということになります。



において、WACC、自己資本コストについて以下のフォーミュラ式をお話しました。


自己資本コスト= リスクフリーレート + エクイティリスクプレミアム x ベータ  + アルファ 


ここのアルファが、本日のサイズリスクプレミアムです。


サイズリスクプレミアムは、企業規模が小さい企業はリスクが高いと考え、“小規模会社”に投資する際に自己資本コスト(CAPM)の計算で上乗せするリスクプレミアムです。



「規模が小さい会社は大きな会社に比べると、事業が不安定だからその分リスクがある」といえば、なんとなく納得がいく箇所だと思いますが、自己資本コストを計算する時に、サイズリスクプレミアムを考慮すべきか否かは諸説あります。


ここでは株価算定におけるサイズリスクプレミアムの「実務的な対応」を中心にお話します。



ちなみに、シリーズ「事業価値算定のポイント」は、以下の章立てです。



4.支配権プレミアム&流動性ディスカウント

5-3WACC計算 サイズリスクプレミアム

5-4DCF法 期央主義

6.ベンチャー企業のバリュエーションにおける割引率




サイズリスクプレミアムとは?


サイズリスクプレミアムとは、時価総額が小さな会社(小型株)に投資した際のリターンと、大きな会社(大型株)へ投資した際のリターンの差になります。


サイズリスクプレミアム  = 小型株のリターン - 大型株のリターン



小型株と大型株を比較すると、小型株の方が、事業規模が小さい、事業のボラティリティが高い、人材の層が薄く経営が安定しにくい、資金調達が困難などの理由から、株式投資を考えた際のリスクが高いと考えられます。


そして、投資に対するリスクが高いのであれば、その分リターンも高くないと割に合わないというのが、サイズリスクプレミアムを考慮して自己資本コストを上昇させる論拠になります。



CAPM


自己資本コスト= リスクフリーレート + エクイティリスクプレミアム x ベータ



CAPM(資本資産価格モデル)では、株式投資に対するリスクはベータという単一の指標によって捕捉されると考えますが、小型株は、過去実績のリターンを見るとCAPMでは説明できないほどの超過リターンが発生していると言われています。


以下、すこし古いデータですがIbbotson Assosiates Japan 日本のサイズプレミアムサマリーです。10分位のグループ単位がありますが、3分類に纏めたものです。



グループが下に行くにしたがって、時価総額が小さいグループということになります。


なお、別途10区分にした場合の一番小さな区分では、CAPMに対して12%超の大きなリターンが発生していたということになります。



感覚的にも規模が小さな会社はリスクが高いし、実際の統計データとしてもリターンが高かったのであれば、WACCを計算するときにもリスクプレミアムを加算することに何らの違和感はないのですが、実際には以下の通り、その妥当性については諸説あります。



サイズリスクプレミアムの妥当性


米国市場では実際に観測されているサイズリスクプレミアムですが、その妥当性については、様々な専門家から見解が出されています。



例えば、サイズリスクプレミアムは一部の例外的な期間に発生した影響によるものであり、恒常的に発生するものではないのではないか?といわれていたりします。特定期間を除くと、過去50年超の期間大型株の累計利回りは小型株とほとんど同じであるなどの意見があります。


日本市場におけるサイズリスクプレミアムの見解例



日本経済のリスクプレミアム(山口勝業著 東洋経済新報社)

Ibbotson Assosiates Japan会長の山口氏による書籍です。

こちらの書籍では日本企業を対象にした場合にも「小型株効果(小型株の方がリターンが高い)はあるものの、その理由は業種による要因が主であり、企業の規模によるものではない」と説明されています。このサイズ・プレミアムの章は、バブル期(87~89)、バブル崩壊期(97~99)、回復期(2000~2003)で個別具体的な業種(小型株のほとんどを占める)の栄枯盛衰を背景にサイズリスクを分析されているので、わかりやすく個人的には説得力があると思います。



武蔵大学の久保田敬一氏、早稲田大学大学院の竹原均氏によると、1977年9月~2006年8月までの29年間のデータを分析し、サイズリスクファクターについては、「小型株効果が長期で安定的でないことを原因として、期待リターンとの関係も不安定。しかし、アセットプライシングの実証分析上、不要とは判断すべきではないと示唆される証拠を得た」と消極的な形でサイズリスクプレミアムはあると説明しています。



実務におけるサイズリスクプレミアムの考慮の必要性


実務上の扱いについてお話します。


を参照下さい。



株価算定・PPAなど、監査法人からレビューを受ける実務を想定しています


サイズリスクプレミアムを考慮する必要があるのか?


監査法人からレビューを受ける実務においてはサイズリスクプレミアムを考慮します。


所与としてそうなっていると考えたほうが良いと思います


これは監査という性質上仕方ありません。監査は基本的に保守的な前提に立っています。


監査法人は過去当局から、「サイズリスクプレミアムを入れろ」という指摘を受けており、サイズリスクプレミアムを入れるという選択肢しかないのです。


監査において最終的にリスクを負うのは、監査意見を表明する監査法人ですので、評価を行う側が、監査法人の要求にこたえるしかありません


ちなみに、サイズリスクプレミアムの統計データですが、大手監査法人がM&A目的において利用するデータは、Ibbotson Assosiates Japanが出している米国10分位のデータを使うことが一般的だと思います。個人的には日本経済のリスクプレミアム(山口勝業著 東洋経済新報社)の主張が現実的で、業種を無視してこれ以上の固有のリスクプレミアムを加算するのは実際はやりすぎかなあとおもいます。



サイズリスクプレミアムのテーブル


評価対象企業の時価総額(買収金額)を、サイズリスクプレミアムの10分位テーブル表に当てはめて判断することが一般的です。


Ibbotson Assosiates Japanが発行するサイズリスクプレミアムは、企業群ごとに時価総額のレンジと対応するサイズリスクプレミアムを記載していますので、どのレンジに入るかを判定します。


そして、該当するサイズリスクプレミアムを単純に自己資本コストに加算することになります。


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